過失割合を判断する基準は?
過失割合の認定基準について
かつて、過失相殺の割合の判断には明確な基準がありませんでした。このため、交通事故の訴訟において、同じような交通事故の過失割合に関して、裁判官によってその判断に大きな差がでることがしばしばありました。これでは公正な裁判はできません。
そのために、昭和44年1月に、裁判における交通事故の過失割合の判断の指針として、はじめて「自動車事故における過失割合の認定基準」が公表され、全国の裁判所で利用されるようになりました。
なお、現在では、以下の3文献が過失相殺の割合を判断するための指針として、利用されています。
- 東京地裁民事交通訴訟研究会編著「民事交通訴訟における過失相殺率等の認定基準」
- 財団法人日弁連交通事故相談センター編「交通事故損害額算定基準」
- 東京三弁護士会交通事故処理委員会編「損害賠償額算定基準」
裁判所が交通事故の裁判の際にこれらの文献を利用することはもちろんですが、示談交渉等において過失相殺の割合を算定する場合にも、これらの文献がよく参考にされています。
基本的な過失割合について
なお、これらの過失相殺に関する基準では、交通事故の類型に応じて、基本的な過失割合が定められています。たとえば、歩行者と車、信号機のある横断歩道で、自動車と歩行者が衝突した(自動車が歩行者をはねた)場合を考えてみます。
この場合、歩行者の過失割合は、自動車が青信号で歩行者が赤信号で横断を開始した場合が70%、自動車が黄信号で歩行者が赤信号で横断を開始した場合50%です。自動車が赤信号で交差点に侵入し、歩行者が赤信号で横断を開始した場合20%と、歩行者の過失割合が決められています。
なお、事故を起こした環境と、自動車と歩行者の状態から、あらかじめ決められている割合を「基本的な過失割合」といいます。この基本過失割合は、実際の過失割合の大元を定める大変重要なものです。
修正要素について
実際の過失割合はこの「基本的な過失割合」に修正要素を考慮して決めます。修正要素とは、実際の事故はさまざまな条件のもとで発生しますから、その条件を過失割合に反映させるための仕組みのことです。
基準に規定されている「基本的な過失割合」をそのまま実際に起こった事故に適用すると、適切な過失割合の判定ができない場合もあります。これを解消するために、交通事故の状況などに応じて、基本的な過失割合を一部修正するというものがこの修正要素の役割です。この修正要素には、加算要素と減算要素があります。
修正要素・加算要素について
加算要素とは、たとえば、歩行者が深夜の時間帯に道路横断中に事故にあった場合、歩行者が高速走行の自動車が多い幅員14m以上の道路を横断中事故にあった場合、歩行者が車両の直前直後を横断中に事故にあった場合、など被害者側に事故を起こし易くする事情があった場合、「基本的な過失割合」を5%~20%増やすことです。
ですから、上の例に適用しますと、自動車が黄信号で、歩行者が赤信号で横断を開始した場合の交通事故で、この事故が深夜の午前2時に起きたとすれば、基本的な過失割合は50%ですが、深夜の事故による加算が5%~20%付きますから、最終的な過失割合は、55%~70%の範囲で決定されることになります。
修正要素・減算要素について
一方、減算要素とは、被害者側に事故を起こしにくくする事情または事故を起こしてもやむを得ない事情があった場合、基本過失割合を5%~20%の範囲で減らすことです。たとえば、歩行者が集団歩行していた、歩行者が児童や老人であった、歩道と車道が区別されていない場所を歩行していた、等がこの減算要素に該当します。
上の例に適用しますと、自動車が黄信号で、歩行者が赤信号で横断を開始した場合の交通事故で、この事故の被害者が児童であった場合には、基本的な過失割合は50%ですが、被害者が児童であることの減算が5%~20%となりますから、最終的な過失割合は、45%~30%の範囲で決定されることになります。
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過失相殺による保険金の支払いへの影響は?
交通事故の損害賠償の内容
自動車を運転中、交通事故を起こし、相手側を死傷させた場合や相手側の自動車を破損させた場合、相手側の損害を賠償する責任を負います。たとえば、相手側を負傷させた場合には、ケガの治療費や通院交通費、慰謝料、障害等による遺失利益などです。相手側の自動車などを破損させた場合には、修理費や買替費用等です。
過失相殺について
ところで、被害者の側にも、交通ルール違反があったなど、事故に巻き込まれたことについて過失がある場合、加害者が支払うべき賠償金の額は、過失相殺により、被害者に過失がない場合に比べて減額されます。
たとえば、交通事故で歩行者をはねて負傷させ、治療費が100万円かかったとします。この場合で、青信号で横断歩道を渡っている歩行者をはねた場合には、100万円の賠償金を支払う必要があります。
一方で、赤信号で横断歩道以外の場所を渡っている歩行者をはねた場合には、歩行者に重大な過失があるので、過失相殺により賠償金は80万円支払えばよい、というようになります。
自賠責保険からの保険金の支払いに関する過失相殺について
なお、自動車保険には、自賠責保険と任意保険の2種類があります。過失相殺の仕方は保険の種類によって異なります。自賠責保険の場合には、過失相殺の対象となるのは、被害者の重過失に限られます。
そして、過失相殺の割合も、死亡事故の場合には、被害者の重過失の程度に応じて、減額率が20%・30%50%の3段階、傷害事故の場合には、被害者に重過失がある場合、一律に20%と、ある程度あらかじめ決められています。
なお、自賠責保険は、交通事故の被害者を保護するための制度であり、査定が原則として書面審査のみで行われるという特徴があるため、このような機械的な仕組みになります。
なお、被害者側が自賠責保険で重過失があると認定されるのは、信号無視して事故に巻き込まれた場合、泥酔状態で道路に寝ていて事故に巻き込まれた場合、横断禁止場所を横断して事故に巻き込まれた場合、などが該当します。
任意保険からの保険金の支払いに関する過失相殺について
一方、任意保険の場合には、過失相殺に関して、自賠責保険のようなあらかじめ決められた制限はありません。日弁連交通事故相談センターが発行している「交通事故損害額算定基準」などを参考に、事故ごとに当事者らが交渉で過失相殺による減額の割合を決定します。
自賠責保険の場合には、過失相殺ができるのは被害者に重過失がある場合のみでしたが、任意保険の場合には、過失相殺が可能な範囲はより広く、重過失に加えて通常の過失も相殺の対象となります。
また、強制保険は対人賠償が対象ですが、任意保険は、対人賠償の他にも対物賠償も対象になります。任意保険の過失相殺の割合は、保険会社が提示してきますが、この割合に納得ができない場合には、弁護士等に依頼して保険会社等と交渉します。
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過失相殺とは何か
過失相殺とは
交通事故の加害者になった場合、被害者に対してその損害を賠償する責任を負います。この際に、被害者にも事故に対して過失がある場合、その過失に応じて加害者が支払いうべき損害賠償金の一部を減額するという仕組みを過失相殺といい、その割合のことを過失割合といいます。
警察による実況見分では事故の状況を調査し事故を起こした側と起こされた側の双方に過失がないかどうかを調べます。この過失相殺によって自動車保険による補償額が変わってくるのです。
民法722条2項では次のように規定しており、これが過失相殺の根拠となります。
被害者に過失があった場合、裁判所は、これを考慮して損害賠償の額を定めることができる
民法722条2項
たとえば出会い頭での衝突の場合、相手の前方不注意であったとしても、過失割合は双方に振り分けられ、100%過失が認められるケースは少ないと言えます。
しかし一時停止義務違反や左優先の交差点での事故の場合、事故を起こした相手方の過失割合が大きくなります。また夜間に歩行者との間で事故を起こしてしまった場合には、車がライトを点灯していた場合に関して過失割合が一定割合で歩行者側にも設定される事があります。
これは車がライトを付けて走行していたことを歩行者が認識し、安全確認を怠ったという理由が適用されるためです。しかし歩行者は交通弱者であることから、故意に飛び出しをしたなどの理由でない場合はドライバーの過失責任の割合が高くなります。
過失割合を適用した賠償額
過失割合が双方に振り分けられる場合、賠償額に関してもその割合が適用されます。たとえば7:3での事故の場合、相手方は3割の責任が生じ、事故を起こした側には7割の賠償責任が生じます。
対物賠償責任保険では7割を加害者側が負担することになります。しかし過失が無いとされる事故もあります。それは追突事故です。
信号待ちをしている車に背後から追突してしまった場合には相手の責任は無く加害者側が100%の過失を負うことになります。過失の割合がどれほどになるかについては警察の実況見分による決定にかかっています。
さまざまな過失割合のケース
自動車と歩行者の交通事故の場合
たとえば、自動車を運転中に歩行者をはねてしまい、歩行者が負傷しその損害賠償金が100万円だったとします。しかし、被害者である歩行者は、横断禁止場所を横断中に事故に遭いました。この場合の被害者の過失割合は原則として30%です。
もし、被害者の方が交通ルールを完全に遵守して事故にあった場合には過失割合は0%で、加害者は100万円の賠償金を支払う義務を負います。しかし、被害者に30%の過失がある場合、加害者の支払うべき損害賠償金は30%減額されて70万円になります。
このように、過失相殺の考えが働くため、損害賠償額の算定にあたり被害者の過失の有無や大きさを十分に考慮した上で、加害者が支払うべき損害賠償金の額を減額します。
自動車同士の出会い頭の事故の場合
なお、過失相殺は人身事故だけでなく車同士の物損事故にも適用されます。たとえば、Aの自動車とBの自動車が交差点で衝突し、AとBに怪我はなかったけれど、両者の自動車が破損しA車の修理費に70万円、B車の修理費に50万円かかるとしましょう。
この場合、原則としてAはBに対して70万円の請求ができます。一方、BはAに対して50万円の請求ができます。過失相殺がなければ、両方の債権債務を相殺して、BがAに20万円を支払うことになります。
しかし、事故についてAとBの双方に過失があり、その割合が50:50だったとしましょう。そうすると、この過失割合を考慮した賠償額は以下のとおりとなります。
(70万円+50万円) × 50% = 60万円