交通事故の示談交渉はどうすればいい?流れや相場、交渉術などのテクニックを解説

交通事故示談交渉

記事監修者紹介
ファイナンシャルプランナー髙橋洋子髙橋 陽子
日本生命保険相互会社にて3年半以上勤務し、年間100組以上のコンサルティングを行う。
その後、2019年4月より当メディアにて保険をはじめとする金融記事の監修を務める。

どうしても示談交渉が進まないときは「交通事故紛争処理機関」に相談

示談交渉が長期化する場合について

被害者が正当な賠償額を提示していても、示談交渉がなかなか進まない場合もあります。しかし、被害者に後遺症が残った場合や入院が長期にわたる場合には、早く示談交渉を成立させて安心したいものです。

また、自動車事故の損賠賠償請求権の消滅時効の期間は、3年間とされています。したがって、示談交渉が長引いて、事故発生から3年を経過する時期が近くなると、いやでも交渉を急がなくてはなりません。

交通事故紛争処理機関による相談について

そのような場合には、「交通事故紛争処理機関」に相談してみるとよいでしょう。「交通事故紛争処理機関」は2つあります。1つは、(財)交通事故紛争処理センターです。もう1つは、(財)日弁連交通事故相談センターです。どちらのセンターも弁護士による無料相談を受けることができます。

(財)交通事故紛争処理センターでは、弁護士による無料法律相談、和解斡旋、紛争解決のための審査を実施しています。なお、センターの裁定には、一定の要件の下、保険会社も従わなくてはならない義務が生じます。

一方の、(財)日弁連交通事故相談センターでは、被害者が、電話で相談の予約を入れ、予約した日時に被害者がセンターを訪問して弁護士の相談を受けます。また、5分程度の弁護士による無料電話相談も行っています。

センターに相談する際の注意点

なお、センターに相談する際には、限られた時間内に事故状況を正確に相談相手の弁護士に伝えなくてはなりませんから、事前に十分な資料を用意して、説明内容を整理しておくとよいでしょう。

裁判所への手続きの前にはセンターを利用しておくとよい

示談交渉がまとまらない場合には、最終的には、裁判所に調停を申込むか訴訟を提起することになります。その前に、センターに対して、裁判所での調停手続きの方法や訴訟の起こし方、和解や訴訟を起こした場合の見通しについて、相談しておくとよいでしょう。

また、事故発生から3年を経過する時が近くなってきますと、消滅時効の完成を防ぐために、内容証明郵便などで加害者に賠償金の請求をしなくてはなりません。しかし、この請求をした後6ヵ月以内に訴訟などの裁判上の請求を行わないと、消滅時効が完成してしまいます。

消滅時効の完成を防ぐためには、多少複雑な手続きをしなくてはなりません。このような場合にも、センターに相談すれば、適切な方法を教えてもらえます。いずれにしても、相談料は無料ですから気軽に相談することができます。

示談書を公正証書にしておくと強制力を持たせることができる

物損事故の場合には支払いリスクが伴うことが多い

人身事故で加害者が任意保険に加入している場合には、被害者が賠償金を支払ってもらえないというリスクはそう高くはありません。示談交渉で加害者が賠償金を支払っても、その領収証をもって保険会社に請求すれば、被害者に支払った金銭を取り戻すことができるからです。

しかし、物損事故で、加害者が任意保険の対物賠償保険に入っていない場合には、加害者に対して、保険会社からの保険金の支払いがありませんから、加害者が示談交渉で決まった支払額を支払わない可能性が高くなります。

そのような場合には、示談交渉が成立した場合に作成する示談書を公正証書で作成しておくとよいでしょう。示談書が私製証書だと、強制執行力がありません。強制執行力とは、債務者が債務を履行しない場合には、裁判所が債務者の財産を強制競売し、その配当代金から債権者への弁済を行うというものです。

私製証書の示談書の問題点

私製証書の示談書にも強制執行力を行うことができます。私製の示談書もとに加害者に賠償金支払請求訴訟を起こして勝訴判決を得れば、その判決をもとに加害者の財産に強制競売をかけることができます。しかし、裁判を起こさなくてはならないため、手続きが煩雑です。

ですから、物損事故で加害者が対物賠償保険に加入していない場合など、加害者が賠償金を支払わないリスクが高い場合には、示談書は公正証書で作成すれば安心です。なお、この公正証書には「支払を怠った場合には、直ちに強制執行をされても異議ありません」などという「強制執行認諾文言」を付けてもらいます。

この「強制執行認諾文言」付の公正証書の場合、加害者が賠償金の支払いをしなければ、裁判手続きを経ることなく、直ちに、裁判所による強制競売の手続きを行うことができます。ですから、万が一、加害者が支払いを拒む場合でも安心です。

支払いリスク対策には公正証書による示談書がよい

保険会社の担当者相手の示談交渉の場合は、賠償金が支払われないリスクは非常に少ないので、示談書は私製文書で作成しても問題ありません。実際には、保険会社が用意した示談書をそのまま使うことが多くなっています。

ただし、当事者同士で示談交渉を行う場合には、支払いリスクのことを考慮に入れておかなくてはなりません。強制力のない示談書は紙切れと大して変わりありません。賠償金額が少額だと、割に合いませんからなかなか裁判は起こせません。

そこを加害者がついてきて、私製文書の示談書で交渉をまとめた場合には、示談内容を無視する可能性もあります。示談交渉の際に、示談書を公正証書で作成する旨も合意しておけば、そのような事態を未然に防げるので安心です。

公正証書の作成方法

最後に、公正証書の作成方法です。まず、当事者が実印と印鑑証明書をもって公証役場へ行きます。公証役場へ行ったら、公証人に示談の内容を話し、公正証書を作成してもらいます。なお、この際に、公正証書に「強制執行認諾文言」を付けてもらうことを忘れないようにします。

最後に、手数料を払います。手数料は、示談書に記載されている賠償金の総額が100万円までなら5,000円、1,000万円までなら17,000円、5,000万円までなら29,000円です。なお、公証役場には管轄がありませんから、日本全国どの公証役場でも作成可能です。

示談が成立したら「示談書」を作成する

示談書の作成方法について

示談が成立した場合には、後日示談が成立したことを証拠として残すために、示談書を作成します。この示談書には決まった様式がないので、専門家でなくても作成可能です。示談書のサンプルは一般の書店などでも購入できますから、それに必要事項を記載した文書でも、効力にまったく問題はありません。

一般的な示談書の内容

一般的な示談書の内容は、まず、タイトルを「示談書」とします。この他にも「和解契約書」や「協議書」などとしても示談書として扱うことが可能になります。次に、交通事故の表示を記載します。ここでは。事故の発生日時、場所、状況を簡潔に記載します。

続いて、示談条項を記載します。示談条項は、示談により当事者が合意した内容を記載します。具体的には、加害者が被害者に賠償する金額やその支払方法などを記載します。最後に、加害者や被害者、当事者の代理人などの住所および氏名を記載し、当事者全員が署名捺印を行います。

示談書作成の際の注意点

示談書を作成する際の注意点としては、まず、後の賠償金の支払トラブルを避けるために、示談成立時に示談金を一括して受領し、受領してから示談書に署名捺印するのが望ましいです。賠償金額が高額で分割払いが必要な場合は、頭金の受領の後に、署名捺印を行うようにします。

こうしておけば、のちに加害者が賠償金を支払わないというようなトラブルを未然に避けることができます。また、賠償金が高額で分割払いにする場合には、支払いを1回でも怠った場合には、残金の一括支払いの義務が生じ、かつ金○○万円の違約金を支払わなくてはならない、などという条項を設けておくと有効です。

また、示談書に賠償金額の詳細な内訳を記載する場合もあります。示談交渉の際は、賠償金額の詳細な内訳を提示することは、適切な賠償金額の算定のために必要です。しかし、示談書作成の場面では、大切なのは賠償金額の総額ですから、総額のみ表示し、金額の内訳の明細は記載しない方が示談書がわかりやすくなります。

なお、示談書は当事者の人数分作成します。当事者が3名であれば、示談書も3通作成します。そのすべてに、当事者の全員が署名捺印を行います。そして、各当事者が1通ずつ保有します。なお、当事者が代理人を立てて場合には、代理人に示談書を交付すれば、依頼した当事者への交付は不要です。

物損事故での示談交渉の進め方

物損事故の示談交渉の問題点

物損事故の示談交渉の場合には、人身事故に比べて賠償金額が少額であり、また、損害額の算定も比較的容易です。したがって、示談交渉は比較的簡単な手続きで済むという特徴があります。

物損事故の示談交渉で成立する賠償金は少額であることが多い

ただし、被害者から見た場合、物損事故には2つの問題点があります。まずその1つ目は、金額が少額なため、裁判にでるのが難しいという問題です。裁判となれば、多額の費用と長い時間を必要とします。賠償額が多ければそれでもよいのでしょうが、少額の賠償金ではどうしても割に合いません。

また、仮に裁判になったとしても、人身事故事件とは異なり、被害者側が、加害者の行為により被害を受けたことと、加害者に故意や過失があったことを証明しなくてはなりません。これも大きな負担となります。

ですから、加害者側が提示してくる賠償金額に異議があっても、最終的には、加害者側が提示してきた賠償額を認めなくてはならない事態が多くなります。交渉の主導権は加害者側が握っているということであります。

物損事故には支払いリスクがある

物損事故に関する示談交渉の問題の2つ目は、示談で決まった賠償金が支払われることが確実に保証されないということです。任意保険の対物補償には加入していない人は結構います。加害者が任意保険の対物補償契約を結んでいない場合には、保険会社から加害者に対して保険金の支払いはありません。

ですから、その場合には、示談で決まった賠償金は加害者が負担しなくてはなりません。加害者に資力があればいいのですが、加害者に資力がない場合には、示談で決まった賠償金が支払われない場合があります。物損事故には、このような支払いリスクがあります。

自分が加入している保険契約はよく調べること

なお、自動車の任意保険には対物賠償保険というものがあります。これは、被保険者が所有または運転する車が、他人の車、住居や塀その他の財物を損壊した場合に、被保険者に賠償金が支払われるという保険です。

対物賠償保険には、自家用自動車保険、自家用自動車総合保険、車両保険などさまざまな種類があります。自分が物損事故を起こした場合に、自分が任意保険でこの対物賠償保険契約を結んでいれば、被害者に支払う賠償金の支払いを保険会社に肩代わりしてもらうことができます。

なお、この対物賠償保険に加入している場合でも、事故発生時に警察への報告を怠ると、交通事故証明書が発行されず、保険金の支払いを受けることができません。また、保険会社によっては、5万円程度の自己負担額を設けているところや、酒酔い運転による事故の場合には補償しないという条項を設けているところもあります。

物損事故の場合でも、警察への報告は省略せず行います。また、普段から自分の加入している任意保険の保険契約の内容はよく確認しておきましょう。ちなみに、自賠責保険は物損事故に対する保証はありませんので、物損事故の場合に自賠責保険から補償を受けることはできません。

死亡事故での示談交渉の進め方

死亡事故の示談交渉の開始時期について

交通事故の被害者が死亡した場合の示談交渉の開始時期は、被害者の葬儀が終わって四十九日が経過した時以降が、当事者が落ち着きを取り戻す頃なので適切な時期と言えましょう。

ところで、死亡事故の示談交渉の場合には被害者本人がいないわけですから、誰が被害者の代わりに交渉担当者となるかということが問題となります。ところで、仮に被害者に遺言があったとしても、死亡事故の損賠賠償金には、この遺言は適用されません。

というのは、被害者が遺言を作成した時点では、事故の損害賠償金は存在しませんでしたから、遺言の効力は損害賠償金には及ばないと考えられるからです。よって、被害者が全財産を配偶者に相続させるという遺言を残しても、損賠賠償請求権は法定相続分とおり相続されます。

死亡事故の被害者側の示談担当者はだれになるのか

法定相続分とは、被相続人に配偶者と子がある場合には配偶者1/2と子1/2(子が複数ある場合には均等割)、被相続人に子がない場合には配偶者2/3と親1/3(親が複数ある場合には均等割)、被相続人に親と子がない場合には、配偶者3/4兄弟姉妹1/4(兄弟姉妹が複数ある場合には均等割)です。

ですから、被害者の示談交渉の担当者は、原則として、こられの相続人の中から代表者を選んで決めます。代表者の選び方としては、口達者な者や押しの強い人が適任です。ただし、後のトラブルを避けるために、示談金の入金は相続人全員が共同で開設した口座に入金します。

こうしておけば、相続人全員の判子がないとお金をおろせないため、安心です。代表者の口座に示談金の全額を入金すると、代表者が金銭を独り占めしたりして、あとから金銭をめぐるトラブルが起こりやすくなります。

加害者を嫌って示談交渉を開始しないでいると

なお、加害者の顔をみたくないといって、なかなか示談交渉を開始しない場合があります。しかし、事故直後は、加害者は刑事裁判に係属中であることが多く、刑事裁判では判決前に示談がまとまっていると判決が軽くなることが多いので、加害者が早く示談をまとめるように焦っている場合が多いです。

そのために、有利な条件で示談交渉を進めることができる場合が多いのですが、その機会を逃します。また、あまり示談交渉を拒否していると、損害賠償請求権の時効期間は3年ですから、消滅時効に引っかかる可能性があります。

仮に消滅時効に引っかからなくても、示談開始が遅れて示談交渉中に事故から3年を経過する場合には、消滅時効の完成を防ぐために、途中で裁判に移行しなくてはならない事態が起こります。裁判になると費用や時間が相当に必要になりますから、大変です。

最近では、示談交渉には加害者の代わりに保険会社の交渉担当者が来ますから、抵抗感は少ないはずです。葬式に加害者が来ないからなどという感情的な問題は別にして、被害者の四十九日が終わったら、早めに示談交渉を開始すべきです。

傷害事故での示談交渉の進め方

傷害事故での示談交渉のポイント

単なる傷害事故での示談交渉は、死亡事故や後遺障害が関係する傷害事故に比べて、金額も低めです。自賠責保険から支払われる傷害に関する賠償金の支給限度額は120万円ですが、示談交渉で定まる賠償金額がこの支給限度額の範囲内に収まることも少なくはありません。

示談が成立した場合、自賠責保険の支給限度額内に示談で決まった賠償金の額が収まる場合には、自賠責保険会社には示談証の様式がありますから、そちらの様式を用いて示談書を作成してもよろしいです。

また、保険会社の示談交渉担当者が加害者の代理人として示談交渉に参加している場合には、その保険会社の担当者が持参した保険会社の示談書の様式がありますから、そちらの様式を用いて示談書を作成してもいいでしょう。

当事者同士の示談交渉の場合には公正証書による示談書がおススメ

なお、保険会社の示談書の様式を使用する場合には、支払いに関しては保険会社が責任を負う場合がほとんどですから、特に問題はりません。しかし、当事者同士で示談書を作成する場合には、注意が必要です。示談が成立しても賠償金の支払いが実行されなければ、示談書はただの紙切れです。

したがって、当事者同士の示談交渉で示談が成立した際には、その際に作成する示談書は公正証書にて作成しておくことがおススメです。示談書を公正証書で作成しておけば、示談書で定められて金額を加害者が支払わない場合には、裁判所が加害者の財産を競売にかけ、その競売代金から支払いを受けることができます。

分割払いの際には違約金特約の設定が重要

また、一般の傷害事故に関する示談交渉の場合には、比較的金額が少額です。また、自賠責保険の支払限度基準内であれば、自賠責保険から最終的には支払われますから、分割払いが問題となることはほとんどありません。

しかし、後遺障害が残る傷害事故の場合には、示談交渉の際に、分割払いの契約をすることがよくあります。その際には、支払いを1回でも怠った場合には、直ちに違約金○○万円を請求できるといった特約を付けておいた方がいいです。分割払いの場合には、支払期限がよく破られるので、それを予防するためです。

示談成立後の後遺障害の発症に備えることも必要

また、交通事故の場合には、示談成立後に事故が原因と思われる後遺障害が発症することがよくあります。しかし、示談成立後の障害の発症は、交通事故の因果関係の証明が難しいため、その後遺障害の賠償金を加害者に請求することは困難です。

また、示談書には、被害者はこの示談書で定められた賠償金以外の金銭を請求しないなどという条項が付けられている場合が多く、このことも、示談後に発症した後遺障害に対する賠償金の請求を困難にしています。

ですから、示談書には、示談成立後後遺障害が新たに発症した場合には、あらためてその後遺障害に対する賠償金の示談交渉を行う、などの特約を結んでおけば、万が一の場合にも困ることはありません。

示談交渉を成立させるポイント

1回では決まらない示談交渉

示談交渉が1回でまとまることは稀です。加害者側はできるだけ賠償金額を低く抑えようとしますし、被害者側はできるだけ賠償金額を高くしようと試みます。ですから、初回の示談交渉では、両者の主張する金額に開きがあることが多く、その開きを埋めるために数回の交渉を繰り返すのが普通です。

交渉が成立しやすくなるタイミングについて

ただし、示談交渉には交渉が成立しやすいタイミングというものがあります。そのタイミングとは、以下の3つです。①加害者が刑事裁判をかかえているとき②双方の提示額の差額が狭まってきたとき③被害者の請求金額の80%~90%の支払いを加害者が認める、です。

まず、第1の場合についてですが、示談の成立は刑事裁判の結果が大きく左右します。ですから、加害者が刑事裁判に係属中であれば、加害者が急いで示談を成立させようとする場合があります。この場合には、被害者側の主張がとおりやすくなりますから、示談交渉が行いやすく、示談成立のためによいタイミングとなります。

さらに、このタイミングを逃して刑事裁判の判決がでると、加害者の態度がガラッと変わり、被害者側の主張に徹底して反論したりするようになります。その場合には、刑事裁判の判決が出る前に示談交渉を成立させておけばよかったと後悔することになります。

双方の提示額の差が狭まってきたとき

第2の場合については、双方の提示額の差が狭まってきたときには、両方の中間を賠償金額とすれば、示談が成立しやすくなります。双方の提示額の差が狭まってきたとは、双方の提示額の和の1/2の20%~30%程度だと言われています。

たとえば、加害者側の提示額が90万円、被害者側の提示額が110万円とすれば、双方の提示額の和は200万円でその1/2が100万円、差額が20万円ですから20%です。ですから、この場合に、両者の提示額の中間をとって100万円で合意しませんかといえば、合意が成立し易くなります。

被害者の請求額の80%~90%を加害者が提示した場合

第3の場合については、被害者側の請求額の80%~90%を加害者側が提示してきた場合です。ここで交渉が成立すれば、被害者側は請求金額の8割から9割を確保できますし、これ以上交渉を続けていると時間も手間もかかります。さらに、次の交渉で加害者側が現在の提示額よりも低い額を提示してくる可能性もあります。

ですから、被害者側が妥協して交渉を成立させるにはよいタイミングといえましょう。特に、当初の請求額を高めに設定している場合には、請求額の80%~90%でも十分な賠償額となりますから、交渉を成立させても不利益はまったく受けません。

事件屋、示談屋に注意

示談交渉の代理人になることができる者について

示談交渉の代理人は、原則として、無償で引き受ける本人の家族や親族、友人、会社の業務中に事故を起こした場合の会社の事故担当者等、弁護士などしかできません。特に、本人と利害関係を共有する者を除いた第三者が、報酬を得る目的で示談交渉に代理人として参加する場合には、弁護士の資格を有していなければ不可能です

ただし、加害者が加入する保険会社の示談担当者などは、例外的に加害者の代理人となることができます。というのは、昭和48年に日弁連と損害保険協会の間で、一定の条件の下、保険会社が示談サービス付自動車保険の販売を認める取り決めがなされたからです。

事件屋、示談屋について

ですから、加害者の交渉代理人は、家族や親戚や会社の事故係など報酬を得る目的で代理人を引き受ける者以外の場合には、弁護士か加害者の加入する損害保険会社の交渉担当者に限られます。その理由は、適切な資格を持たないで報酬目的に代理行為を行うと、不正が行われやすくなるからです。

ところが、法律などで禁止している、無資格者が報酬目的で示談交渉の代理を行う行為を、平気で行う者がいます。これが、事件屋、示談屋と呼ばれる者たちです。この事件屋や示談屋は2種類あります。

委任を受けた事件屋、示談屋について

1つは、加害者の正式な委任を受けた事件屋の場合です。この場合には、示談交渉が適切に行われないだけでなく、法外な報酬を請求される場合があります。しかも、妥結金額の20%などという報酬設定の場合には、報酬目的のために平気で妥結額を釣り上げたりしますから、うっかり委任したりすると大変なことになります。

このケースに対する対策としては、加害者が代理人を依頼する際には、必ず弁護士登録を受けた弁護士などに依頼することです。弁護士登録者は弁護士会のHPを見ればすぐに確認できます。地域で評判の良い弁護士に依頼するという方法もあります。

弁護士に頼めば費用がかかるというので、弁護士以外に依頼することも考えられますが、それは本末転倒で、事件屋に依頼した方が詐欺まがいの高額報酬を請求されたり、賠償金額を釣り上げられてりして、かえって費用が高くなる可能性があります。

委任を受けない事件屋、示談屋について

もう一つは、委任を受けない事件屋等の場合です。これは本人の代理人の名をかたる詐欺に近い行為で、示談交渉の場で支払われた示談金を持ち逃げしたりします。しかし、この手の事件屋などは委任状を持っていませんから、示談交渉の開始前に、委任状の提示を求めると、偽物であることが発覚します。

また、悪質なものになると委任状を偽造したりする場合もあります。しかし、委任状の筆跡をよく確認したり、怪しいと思った場合に加害者本人に連絡を取ったりすれば、防ぐことができます。いずれにしても、この手の事件屋等にとっては、委任状をしっかり確認することが最良の対策になります。

示談交渉の相手はほとんどの場合、自動車保険会社の代理人

示談交渉には保険会社の示談担当者がよく来ます

最近の任意保険は、示談交渉付サービスを保険契約の内容として付けているところが多くなりました。ですから、加害者が任意保険に加入している場合には、示談交渉の場に加害者の加入している保険会社の示談交渉担当者が来ることが多くなりました。

保険会社の担当者が示談交渉の場に加害者の代理人としてくる場合には、少なくとも、素性の怪しい者が加害者の代理人になることはありませんから、代理権の問題はほとんど発生しません。たいていの場合は委任状を保持していますし、委任状がない場合でも、加害者本人に確認すれば間違いはありません。

なお、依頼者の代理人となって行う示談交渉は法律事務に該当します。報酬を受け取って代理人となり、この示談交渉に参加できるのは、法律によって弁護士などの資格を持つものに限られていました。

しかし、昭和48年の日弁連と損害保険協会の協議により、交通事故紛争処理センターなどを設けることなどの一定の条件の下、損害保険会社の担当者も加害者の代理人として示談交渉に参加できるようになりました。そのために現在では、保険会社の担当者が示談交渉を行うことが当たり前になってきています。

保険会社の担当者と示談交渉を行う際の注意点

ただし、保険会社の代理人は、最初から自賠責保険の支払い基準額を超えないように賠償金額を決めようとしてきます。自賠責保険の賠償金に関する基準は、日弁連が公表している交通事故の損害賠償金に関する基準の70%~80%程度と言われています。ですから、相手方の言いなりになっていては賠償金額は低く抑えられます。

ですから、被害者側もある程度は自分が受けた交通事故に関する損害賠償金が、どのくらいになるかを把握しておく必要があります。日弁連基準として、(財)日弁連交通事故相談センターの交通事故損害額算定基準がありますから、こういった基準を参考にして、ある程度の事故被害の見積金額を出しておきます。

加害者側の提示する金額が低いと思った時の対応

加害者側の保険会社の交渉代理人が提示してきた金額が、事前に見積もりをした事故被害の賠償金金額よりも低い場合には、相手側に異議を申し立てます。日弁連基準は裁判になった場合に認められる金額の基準です。

ですから、示談交渉で主張できる事故の損害賠償額の上限であるといってもいいでしょう。示談で決まる賠償金額は、自賠責基準と日弁連基準の間で定めるのが一般的です。被害者は、日弁連基準で定める金額までは正当に主張できますから、保険会社の提示した賠償金額が低いと思ったら、遠慮なく異議を述べます。

示談交渉に代理人を立てられたら

示談交渉の場に加害者の代理人が来ることはよくあることです。

示談交渉の場に、加害者本人が出席しないで弁護士などの代理人が出席する場合があります。また、加害者が任意保険に加入していれば、加害者が加入している保険会社の示談担当者が加害者の代わりに示談交渉を担当することはよくあります。

当事者同士だと、感情的な対立から交渉がまとまらない場合がよくあるので、加害者が代理人を立ててくることは、落ち着いて交渉ができるため、決して悪いことではありません。

代理人が来た場合には、正当な代理人であることを確認する

しかし、示談交渉の場に加害者の代理人が出席してきた場合には、その代理人が、本当に加害者本人から交渉の代理を依頼された者であるかどうかを、確認します。中には示談屋といって、示談交渉に介入して高額の報酬を請求したり、示談金を持ち逃げするものもおります。

弁護士や加害者本人の加入する保険会社の担当者であれば、問題が起こることは少ないのですが、素性のわからないものが加害者の代理人と称して示談交渉の場に現れた場合には、必ず、その者が本当に加害者の依頼を受けた者なのかどうかを確認します。

加害者の代理人の権限を確認する方法

加害者の代理人が正当な代理人であるかどうかの確認は、一般的には、委任状により行います。代理人に対して、加害者本人の署名捺印のある委任状の提示を求めます。正当な代理人ならば、本人が障害で文字が書けないなどという特別な場合を除けば、委任状は保持しているはずです。

委任状の提示を受けたら、委任状の内容から代理人に示談交渉を加害者に代って行う権限があることを確認します。また、本人の署名捺印が本物であるかどうかを確認します。捺印については、加害者本人の実印での捺印と印鑑証明書が添付されていれば、なお安心です。

なお、代理人が加害者の家族や親戚、加入していた保険会社の示談担当者の場合には、委任状をもらっていないこともあります。その場合には、その代理人に運転免許証などの提示を求めて本人確認したうえで、加害者本人に対して電話などでその代理人に交渉を委任したかどうかを確認します。

代理人が正当な代理人であるかどうかの確認は示談交渉に入る前に必ず行います。正当な代理権のない者と交渉してもまったく意味がありませんし、示談屋などが入ってくれば後から厄介なことになります。交渉開始前の代理人へ委任状の提示を求めることなどは、絶対に省略してはならない過程です。

いつまでも示談交渉を開始しないと3年で損害賠償請求権が失効する

交通事故の損害賠償請求権の時効期間

交通事故の被害者が加害者に対して有する交通事故の損害賠償請求権は、民法724条により、被害者が損害および加害者を知った時から3年、事故発生時から20年を経過した時は、時効により消滅するとされています。

したがって、事故発生当時に被害者が加害者を特定できたとすると、その時から3年以内に示談交渉を終えたうえで加害者に請求しないと、賠償請求権の時効消滅により賠償金の支払いを受けることができなくなります。

ですから、示談交渉をしないまま3年が経過すると、被害者は加害者から交通事故により受けた損害を補償してもらうことができません。このことから、示談は遅くとも事故発生から3年以内に成立させる必要があります。

時効期間が迫っているからといって慌てた示談交渉は禁物

ただし、時効期間が迫っているからといって、慌てて納得できない内容の示談を成立させる必要はありません。その場合には、時効期間の満了までに裁判所に訴えを起こすか調停を申込めば、消滅時効の完成は防ぐとこができます。

自賠責保険の保険会社への保険金請求権の時効期間

なお、保険会社への保険金請求権の時効期間は2年となっています。自賠責保険の場合に、保険金請求権の時効期間が問題になるのは、加害者請求の場合と被害者請求の場合2種類です。

まず、加害者請求とは、加害者が被害者に対して損賠を賠償し、その賠償金を自賠責保険会社に請求することです。加害者が保険会社に保険金を請求する場合には、被害者が作成した賠償金の領収証が必要です。この加害者請求の保険金の時効期間は、加害者が賠償金を支払った時から2年間です。

次に、被害者請求とは、加害者が被害者に対して賠償金を支払わない場合には、被害者は加害者が加入していた自賠責保険会社に賠償金を直接請求できます。この請求のことを被害者請求と言います。この被害者請求の時効期間は、通常は事故発生時から2年間、後遺障害の場合には症状固定の日から2年間です。

政府保証事業への保険金請求権の時効期間

なお、ひき逃げなど加害者が不明な場合や加害車両が無保険であった場合には、自賠責保険は適用されません。そのような交通事故の被害者は、政府保証事業から自賠責保険の保険基準に準じて、賠償金の支払いを受けることができます。

政府保証事業へ事故の賠償金を請求する場合にも時効期間がります。それは、傷害事故の場合には事故の日から、後遺傷害事故の場合には症状固定の日から、死亡事故の場合には死亡した日からそれぞれ2年間です。この期間内に請求しないと、賠償金の請求権が時効消滅して請求できなくなります。

相手が交渉に応じない場合には「内容証明郵便」で交渉に応じるように通告

加害者が一向に示談交渉に応じない場合について

交通事故の被害者が、必要書類の収集が終わりいよいよ示談交渉に入ろうとしても、加害者が一向に交渉に応じない場合があります。その原因として、加害者に誠意がない、居住地が離れている、任意保険未加入なので損害保険会社の交渉代理人を立てることができない、などが考えられます。

加害者が交渉に応じる気がないと、被害者が電話で連絡しても居留守を使われたり、普通郵便で案内を出しても無視されるなどの状態が続きます。このような場合には、「内容証明郵便」で加害者に交渉に応じるように通告すると効果的です。

内容証明郵便を活用することについてのメリット

「内容証明郵便」で通告すれば、加害者がこのまま示談交渉を拒否し続ければ裁判に訴えるぞ、という被害者の強いメッセージを加害者に伝えることができます。通常であれば、「内容証明郵便」で通告された加害者は、被害者に対してなんらかの反応をするはずです。

また、「内容証明郵便」は配達証明を付けることができます。配達証明付の「内容証明郵便」でしたら、通知書が加害者に届いたことが記録として残りますから、後に裁判などになった場合には、証拠として利用することができます。

配達証明付内容証明郵便の出し方

配達証明付きの内容証明郵便を出す場合には、まず、加害者に確定した交通事故の賠償金を請求する旨などの通知文を3部作成します。そして、通知文に記載された加害者(名宛人)と被害者(差出人)の住所および氏名と同一の名宛人と差出人の住所および氏名を封筒に記載して、封をしないで郵便局に持ち込みます。

郵便局へ行ったら、窓口で「内容証明郵便」であることを告げ、配達証明と内容証明郵便の料金を支払います。そうすると、郵便局の担当者が3部の通知文の内容が同一であることを確認します。同一であることが確認されたら、3部の通知文のうちの1通が持参の封筒に入れられた上で封をされ、加害者に郵送されます。

加害者に配達されると、配達された日時が郵便局に記録として残ります。また、3部の通知文のうち次の1通は、郵便局に5年間保管されます。3部のうちの最後の1通が差出人に保管用として返却されます。

示談交渉を開始するタイミングはいつ?

事故の種類によって異なる示談交渉の開始時期

示談の開始時期については、傷害事故、死亡事故、物損事故でそれぞれ異なります。特に、傷害事故の場合には、賠償金欲しさに焦って適切なタイミングよりも前に示談交渉を行うと、大きな損失を被る場合があります。十分に注意しましょう。

傷害事故の示談交渉の開始時期

まず、最初に傷害事故の示談交渉の開始時期について述べます。傷害事故の示談交渉は、通常の負傷の場合には、怪我か完治した時以後が交渉の開始時期となります。その時期ならば、後遺障害の有無、怪我の治療費や入院費用、入院期間中の休業損害や入院慰謝料が確定するので、損害金額の正確な見積もりが可能となるからです。

また、事故により被害者が後遺障害が残るような負傷を負った場合には、この後遺障害の症状が固定し、保険会社の依頼を受けた損害保険料率算出機構の調査事務所が障害等級の決定をした時以後が、示談交渉の開始時期となります。この時ならば、後遺障害による損害補償金も含めて正確な賠償金額が計算できます。

なお、傷害が全治するか後遺障害が固定するまでは長期間かかる場合があります。被害者が、賠償金の支払いまでそのような長期間待つことができないという場合には、治療費や生活に必要な費用を暫定的に仮払いするように、加害者に対して交渉することが必要です。

死亡事故の示談交渉の開始時期

死亡事故に関する示談交渉の開始時期は、死亡から四十九日を経過して忌明けの時期が一般的です。この時期であれば、被害者の遺族も加害者もある程度は落ち着いてきています。死亡事故に関しては、被害者の遺族が感情的になり易いですから、事故から示談交渉までは最低でも四十九日間は間をあけるようにします。

物損事故の示談交渉の開始時期

最後に物損事故の示談交渉の開始時期について述べます。非常に大きな物損事故を起こしてしまった場合を除き、物損事故の場合は示談交渉の開始時期にこだわる必要はそんなにはありません。

交通事故で自動車が破損したのであれば、自動車の修理費用や中古車の買換価格が判明したら、即座に交渉を開始して構いません。住宅や門柱、塀などを破損した場合には、建設業者に見積もりを依頼し、修理価格が判明したら、交渉を開始できます。

物損事故の賠償金の算定は、人身事故に比べて非常に簡単ですので、示談交渉の時期はそれほど重要な問題ではありません。また、示談交渉に関しても対象となる賠償金額がそれほど高額になることは少なく、過失割合でもめない限り、比較的早期に交渉が終結します。

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示談で成立した内容を変更することは出来ない

示談で成立した内容を変更することはできるか

示談で成立した内容を変更することは原則としてできません。示談成立後に新たな後遺障害が発見された場合など、示談で決まった内容が変更されることもありますが、それは非常にまれなケースです。示談交渉は一度定めると後から変更はできませんから、交渉は慎重に行う必要があります。

示談は、交渉の過程においては当事者は自由に交渉の内容を決定できます。しかし、一度内容が合意されると、合意の後に新たな事実関係が発見されても、示談内容を変更することはほぼ不可能と考えた方がよろしいです。

即決示談は厳禁

その時になって、その新事実が発見されてから示談交渉を開始すればよかったなどと思っても、もう手遅れです。なお、示談には事故現場で行う即決示談というものがあります。一度決まった示談が原則変更できないことを考えると、証拠が揃わない状態での即決示談は絶対にしてはいけないことであることは言うまでもありません。

示談交渉の合意内容の変更に関する唯一の例外は後遺障害

なお、例外的に、示談交渉時には予期できなかった後遺障害が被害者に発生した場合には、一度定まった示談交渉の合意内容を変更することができるとされています。その可能性がある場合には、まず医師と相談して、新たに発生した後遺障害が交通事故によるものかどうかを判断します。

新たな後遺障害が交通事故によるものと判断された場合には、医師に交通事故が原因である後遺障害である旨の診断書を作成してもらい、その診断書を根拠にして加害者に示談交渉で定まった損害賠償金額の増額変更を求めます。

加害者との交渉がまとまれば、被害者は、新たに発症した後遺障害を含めて算定した新たな損害金額と前回の示談交渉で決定した賠償金額の差額を、加害者から支払ってもらえることになります。

ただし、この方法の場合、示談交渉の妥結から長時間経過してから後遺障害が発症した場合には、事故と後遺障害との因果関係の証明が困難で、示談交渉の合意の変更は難しくなります。

このような場合も計算に入れて、示談交渉妥結の際には、示談交渉の妥結後に新たな後遺障害が発生した場合には別途補償する等の一文を、示談交渉の妥結内容に加えておけば、そのような事態でも被害者は十分な補償を受けられることになります。

示談交渉をする前に準備しておく書類

示談交渉をする前に準備しておく書類

示談交渉をするにあたっては、事故の発生や損害額等を証明するためにさまざまな必要書類が必要になります。それらの必要書類は、大きく分けて4種類があります。それは①事故状況を証明する書類②事故による損害・後遺障害などの状態を証明する書類③損害賠償額を証明する書類④被害者本人であることを証明する書類、です。

示談交渉に入る前に集めておく書類の具体的説明について

示談交渉をする前に準備しておく書類の第1は、事故状況を証明する書類です。具体的には、自動車安全運転センターが交付する「交通事故証明書」、保険会社から交付を受ける「事故発生状況報告書」、事故現場や事故車両、事故物件の写真、などです。

第2は、事故による損害や後遺障害などを証明する書類です。具体的には、医師の作成にかかる「診断書」や「後遺障害診断書」です。これらは、示談交渉の前に医師に依頼して作成しておいてもらいます。

第3は、損害賠償額を証明する書面です。病院が発行する診療報酬明細書や領収証、休業補償額を算定する際に必要となる事業主の発行に係る「休業損害証明書」、確定申告書の控え、源泉徴収票、などが該当します。なお、物損事故の場合には、修理見積書や修理請求者が該当します。

第4は、被害者本人であることを証明する書面です。具体的には、傷害事故の被害者の場合には、被害者の戸籍謄本を用意します。一方、死亡事故の場合には、被害者の除籍謄本を用意します。いずれも、被害者の本籍地の市町村役場へ請求すれば、交付を受けることができます。

示談交渉に必要な書類を集めるのは誰か

示談交渉に臨むにあたっては、被害者本人がこれらの書面を用意しなくてはなりません。これらの書類を集めるためには相当な時間が必要ですから、示談交渉のスケジュールは、必要書類の収集のために必要な時間を考えて、余裕をもって設定しなくてはなりません。

なお、物損事故の場合には、保険会社に事故の連絡を入れると、保険会社が加害者に代って必要書類を収集してくれます。ただし、その場合でも、自分が撮影した事故車両の写真などがあれば、参考資料として示談交渉の前に用意しておきます。

示談交渉とはどのようなものか

示談交渉とは

示談交渉とは、加害者と被害者がお互いの話し合いで、加害者が被害者に支払う損害賠償金額や支払いの時期を定めることです。一般的に示談は、法律上の紛争を課勝てている当事者が、お互いにの話し合いや譲り合いによって、紛争を解決しようとすることです。交通事故の他にも、離婚や借家の立退きの際によく利用されます。

なお、交通事故の示談は、加害者と被害者の間で行われますが、たいていの場合には、加害者側では本人の代わりに保険会社の担当者が交渉を行います。ですから、示談交渉は、保険会社の示談担当者と被害者との間で交渉が行われる場合がほとんどです。

示談交渉で事故の賠償金額などが定まると

示談により交通事故の賠償金額が定まると、加害者側は示談により定めった金額を支払期限までに支払う義務が発生します。一方、被害者側には、交渉で定まった賠償金を受け取る権利が発生します。なお、被害者側は、示談により定められた金額以上の賠償金の請求を行わないことも、同時に約束します。

傷害事故の示談交渉を行う時期について

示談により一度当事者間で合意がなされると、後から事情が変更した場合でも、原則として示談交渉で決まった合意の内容を変更することはできません。たとえば、示談交渉による合意の後に、新たに交通事故が原因の症状が発症して治療費がかかる場合でも、一度決まった賠償金の増額はほとんど認められません。

ですから、示談交渉の時期については十分に注意する必要があります。交通事故により被害者が負傷して入院した場合などには、症状が完全に固定(治癒)するまでは示談交渉は行わないようにします。治療中に示談交渉を行うと、示談交渉後の治療費の請求ができなくなります。

また、事故の怪我の治療のために入院した場合には、休業補償や慰謝料は入院期間をもとに金額が算定されます。そのため、退院した後症状が治癒してから示談に望まないと、適切な損害賠償金額を算定かつ主張することはできません。

後遺障害が残る場合の示談交渉を行う時期について

後遺障害が残る場合には、信頼できる主治医から症状固定と診断され、保険会社の依頼を受けた損害保険料率算出機構の調査事務所が障害等級を認定するまでは、示談交渉は控えます。障害等級が定まらない限り、適切な賠償金額の算定はありえません。

死亡事故の場合の示談交渉を行う時期について

なお、交通事故により被害者が死亡した場合には、あまり早く示談交渉を開始すると遺族の感情を逆なでするので、最低でも四十九日の忌明けが過ぎてから、示談交渉を申込むべきです。

示談交渉の注意点

交通事故で相手にケガを負わせてしまったり、相手の車や物に損害を与えてしまったりした場合には、賠償責任が生じます。被害者側が賠償に関係するすべての事項に同意し、受け入れることが示談です。示談は和解の意味を持つ言葉で、自動車事故においては和解の成立を示談と呼んでいます。しかしながらスムーズに示談が進むとは限りません。なぜなら人間同士にはお互いに感情や利害関係などがあるためです。万が一事故を起こしてしまった場合には、慎重に示談交渉を進める必要があります。

自動車保険には基本的に示談交渉サービスが付帯しています。これは保険会社の示談交渉を専門とする担当者が被害者と話し合いを行い、慰謝料などの請求などを含めて示談をまとめるサービスのことです。このサービスを利用することで、自分が直接被害者側と話し合うことがなく、円満に物事を解決することができます。しかし保険会社が仲裁に入るからといって、事故を起こした加害者側は何もしなくても良いということではありません。被害者の感情を考慮し、心からの誠意と謝罪を示すことが必要になります。これがないと話し合いがこじれてしまったり、後々のトラブルに繋がってしまったりする場合もありますから注意が必要です。たとえば被害者側の家に謝罪のために伺ったり、入院や療養している被害者を見舞ったりすることが含まれます。

また被害者になった場合、示談交渉はさらに慎重さが求められます。たとえば交通事故の後遺症が現れることもあり、早く示談してしまうことで後に後遺症で苦しむことになっても慰謝料請求ができないという事態が起きてしまうケースが有ります。こうした事態にならないために、保険会社の担当者とは書面での覚書を交わしておくことも大切です。たとえば後に後遺症が現れた場合にはあらためて協議の上解決を図るといった文面を用意しておきます。こうすることで、将来起こるかもしれない問題に備えることができます。ただし、損害賠償請求には3年の事項があることも覚えておきましょう。